[林真理子]正妻 慶喜と美賀子(上)(下)

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単行本として発売されていたときから気になっていた本です。
理由は、徳川慶喜の正妻・15代将軍御台所のことを全く知らなかったからです。
林真理子さんの作品はいくつか目を通したことはあるのですが、あんまり好きな文体ではなく、新作が出てもスルーしていましたが、これだけは、登場人物に興味がわいた次第です。

美嘉子のこと

上下巻、読了しました。
江戸に下る前、京の都の今出川家の屋敷で過ごした少女時代の描写など、すごく興味深かったです。この時代のお公家さんの暮らしぶりなど、小説で読む機会があまりなくて。

御台所と言っても、慶喜は1年ほどしか将軍職に就いていなかったし、美嘉子自身は大奥にすら入っていなかったという事実にびっくり。
しかも、慶喜がしばらく京に上っていたことから、数年間の別居生活。その間は、江戸での美嘉子の暮らしぶりはほとんど描かれていなく、妾の目を通した慶喜の暮らしぶりがつづられています。

慶喜と美嘉子が結婚してのち、江戸で暮らしていた期間より、静岡に蟄居してからの生活の方がずっとずっと長かったのですね。
しかも、美嘉子は女児を出産後、その娘をすぐに亡くしている。そのあとは子に恵まれていない。静岡に隠居後、側室たちが産んだ子供たちを自分の子として育て、乳がんを患い、慶喜より先に亡くなります。

美嘉子自身、公家出身で江戸に下り、夫が将軍となり時に人となり、大政奉還があり、夫が戦に敗れ蟄居の身となり…と聞くと、ものすごく波乱万丈な人生だったと思いますが、夫が一番活躍していた時期に遠距離別居を余儀なくされ、子供も授からなかったことから、ちょっと盛り上がりどころのない人生というか、今まで小説の題材にされてこなかった理由が分かりました。

大奥で権力を握ったわけでもなく、お世継ぎを産んだわけでもなく、「悪女」とか「聖女」とか「才色兼備」とか「良妻賢母」とか、世間から何かレッテルを貼られるようなこともなく、この幕末の動乱の中、夫に寄り添い献身的に支えたとか、夫を助けるため奮闘したとか、そういうエピソードもない。
つまり、すごく美しい人だったらしいけど、割と凡庸で慎ましい普通のお姫様だったんだろうな、という感想。たまたま夫が「徳川慶喜」だったという。
もう少しキラリと光る何かがある人なのかと期待して読み進めていたので、活躍することがないまま人生を閉じてしまったという印象です。

慶喜のこと

反面、慶喜の印象が色々変わりました。
慶喜のついての描かれ方、性格に関しては、沢山の小説、ドラマ、映画で様々な描かれ方をしてきていて、果たしてどれが一番真実の慶喜に近いのか分かりませんが、「変わった人だったんだろうな」ということと「女性が大好き」ということはわかりました。

頭は良かったし、政治家としては有能だったんだろうけど、人の気持ちのわからない自己愛の強い人。自分の興味のあること、好きなことにはまっしぐらだけど、それ以外のことはどうでもいい…というタイプ。とても子供っぽい。精神的に成熟した男性ではない。
美嘉子と気持ちがすれ違っていくのも致し方ない、というか、きっとどの女性(側室)とも気持ちを通わすことは出来ていなかったんじゃないかと思います。

大坂城から江戸に逃げ帰ってきたこと

静岡に蟄居してのち、晩年、美嘉子が理由を尋ねます。
戦を放棄して逃げ帰ってきたことについて。
味方だと思っていたフランスや、薩摩に肩入れ手しているイギリスが、どちらも日本を植民地にしようと画策している真意に気づき、そうさせないための手段であったと。

この時代、慶喜だけでなく、薩摩、長州、土佐、その他多くの大名、幕臣、公家、様々な人が日本の将来を考え、西欧列強に屈することなく日本を守ること、力をつけることに尽力してくれたこと。今の日本を形作ってくれたこと。たくさんの知恵と努力と犠牲の上に成り立っていること。
日本が植民地支配を免れ、今に至っていることを、ご先祖様たちに感謝します。

2018年の大河ドラマは、林真理子さん原作の「西郷どん」。
どんな幕末ストーリーを魅せてくれるのか楽しみです!